色のコラム

2013. 03. 18
モノの色いろいろ
JAFCA 出井文太
モノの色いろいろ
JAFCA 出井文太
|| グリーンを巡って
ふだん何げなく使っている色名ですが、色の名前として使われる色名の背景を探っていくと、おもいがけない面白い発見に出会うことができます。色名は、あるモノの名前が、その色名として呼ばれるようになったものであり、その色名のもとになったモノが持つ様々な、自然、文化、歴史などの背景を抱えています。ある色名の由来をたどっていくと、その色名が持つ意外な背景に出会うこともあります。このコーナーでは、そうした色名の背景が持つ様々な面白いエピソードをご紹介いたします。
|| 萌黄(もえぎ)と萌葱(もえぎ)


日本の伝統色名の萌黄(もえぎ)や萌黄色と言うと、緑の草が萌え出るときに見られるような黄色という意味で、若草色と同じような黄緑色を指して用いられます。この萌黄色は平安時代頃から使われていたと思われる伝統色名ですが、後世の江戸時代に入ると「もえぎ」の「ぎ」の字として「黄」ではなく、「葱(ぎ=ねぎ)」の字が当てられるようになりました。葱とは現在のネギを含む、食用の草の意味ですが、この萌葱色は、若草色ではなく、より濃いダークグリーンを指すようになりました。この江戸時代の萌葱色の代表的なダークグリーンは、油単(ゆたん)と呼ばれる布に見られます。油単は、濃い緑地に白い唐草模様が特徴の油を引いた布で、たんすなどを保護するかぶせ物として使われていましたが、現在でも風呂敷にその油単の色柄を見ることができます。
この江戸時代のダークグリーンに使われた萌葱色の、もう一つの代表的な事例として、歌舞伎の定式幕(じょうしきまく)の色をあげることができます。この定式幕とは、歌舞伎の幕間に引かれる幕のことで、左から緑、黒、赤という縦縞ストライプが特徴です。このダークグリーンの緑が色名では、江戸時代当時の萌葱色になります。ちなみに赤は、オレンジみの赤茶色で、当時の色名では柿色、あるいは、市川団十郎ゆかりの団十郎茶がこの色であると言われています。