色のコラム

2017.1.17
未来の色は?
  ~ 対談:PANTONE×JAFCA ~


パントン・カラー・インスティテュート バイスプレジデント/
ローリー・プレスマンLaurie Pressman
一般社団法人 日本流行色協会 クリエイティブディレクター/
大澤 かほる Kahoru Ohsawa



アメリカと日本、異なった国でそれぞれにカラートレンド情報の発信を行っている、PANTONEとJAFCA。年に1回、「その年のカラー」を選んでいることでも注目されています。
昨年2016年8月に、パントンとJAFCA、2人のカラートレンドセッターが、これからのカラー動向などについて語りあう対談を行いました。今回この模様の一部をご紹介いたします。
<2016年8月26日 JAFCAの会議室にて収録>  



殻を破ろうとする色、居心地のよい色


――日本人は変化が大好きで、流行に飛びつきやすいといわれていますが、アメリカと日本のトレンドカラーへの関心に違いはあるのでしょうか? 

プレスマン:アメリカの消費者はトレンドに敏感ですが、そのトレンドの中からユニークさを出して、自分らしさをいかに駆使して目立つかという意識が強いです。ありきたりなところからはずれて、あるものを「破壊する」、ブランドに抵抗する。「これでいつもの私」とはしないということです。

大澤:日本人は自分らしさを持ちたいと思っているのですが、基本的に目立つのが好きではないというところがあって、若い人は特に自分だけが目立つことはしたくないといった意識が感じられます。
2017年秋冬に向けたカラートレンドに「ブレイキングボックス」というキーワードが目立ちます。意味はありきたりの考え方をやめる、殻をやぶるということで、慣れた世界に安住せず、攻めていくという姿勢です。アメリカの啓発本などに影響されてこのような志向を強くもつ人々もいますが、一方では「ゆるさ」を志向する声も高いという現状があります。

プレスマン:アメリカは今混乱している部分がありますが、傾向としては、若い人はやりすぎなところがあり、年配の方は非常に若くありたいという意識がある。
社会動向に目を向けると、「不安定、落ち着かない」というムードがあると思います。アメリカ社会では暴力が日常化していますし、政治でも今大統領選挙を控えていますが(2016年8月時点)、経済では、リッチな人はリッチになり、仕事がない人は貧困にあえいでいるという二極化が進んでいます。そういう要素が色とかファッションに反映されているといえます。
多くの国民は先がどうなっていくのかわからないし、迷っている。そこで、とりあえず今に集中しようという考えになります。今の大勢の中で私というものを確立して、人の目をひこうという発想になるわけです。トレンドカラーの流れでみると、アブノーマルがノーマルになる。具体的にはパステルカラーとブライトカラーを共存させるというような、目立つ色の使い方が普通になってきているといえます。

大澤:インターカラー(国際流行色委員会)でもそういった殻を破ろうとするような、派手な色の組み合わせが提案されていますが、ただその方向だけではないですよね。

プレスマン:そうです。一方では安心感、居心地の良さが求められており、優しい色とかアーストーン、オーガニックな自然に関連する色が求められています。またインテリアではミニマリズム、“less is more、少ないということはよい”というのが台頭してきています。ホワイトもそうですがグレーが非常に強く、グレーというだけではなくグレー+ブライトカラーでコントラストをつけるといった組み合わせが、今の使い方といえます。またグリーンを使うことも大事です。情報が溢れる中で人々は自然を求め、グリーンが求められています。

大澤:日本も同様で、やはりグレーがインテリアでもファッションでも大事になっています。それに強い色を加える傾向が徐々に見えています。今年グッチを筆頭としてタッキー(Tacky悪趣味なの意)と呼ばれる“柄オン柄”のスタイルがでてきましたが、慎重な消費者が少しずつ使っていくようになると思います。
ベースカラーも色々と変化していますね。グレーもありますが、2015年の後半から上質なブラウンがファッションでもでており、インテリアでも面白いブラウンを使っていこうという傾向がみられます。

プレスマン:そのとおりです。

大澤:日本ではグリーンは非常に人気の高い色で、カーキ、オリーブとの流れもでてきています。グリーンはこの先も伸びますか?

プレスマン:グリーンはすでに人気ですが、人々が自然との繋がりを求めようとすることでより人気が高まることは考えられます。人々が身の回りにグリーンを求める傾向がみえます。また、ファッションでいえば先ほど話した目立つという意味から、明るいイエローグリーンも注目されます。この色は誰もが使うというのとはちょっと違って、フレッシュで若い感覚、大胆で、“普通でない”使い方ができる色だといえます。

大澤:アメリカと日本の市場の違いについて具体的にありますか?

プレスマン:今のアメリカ市場では、大胆で目立つブライトカラー、クラス感のあるもの、特に目立つということが特徴だと思います。
日本ではエレガント、上品、洗練さを感じます。アメリカが洗練されていないということではないのですが(笑)。ステレオタイプ化することはできませんが、日本はアメリカに比べてコンサバなのでしょうか。違いというのは、大胆な色についても使う分量の違いだと思います。アメリカでは今ミニマリズムというよりはマキシマリズムになっている。日本の場合はどちらかというとミニマリズムに傾いているように思えます。そんな風に思いませんか?

大澤:トレンドとしてはマキシマリズム、トゥーマッチリズムの方向を仕掛けようという動きがあります。ただ日本人の性質としては、それを日本人らしさというのかもしれませんが、清潔で簡潔で節度があるという国民性があって、いくら破壊性を提案しても受け入れる人は部分的で、大半はちょっと取り入れるという形に収まる様な気がします。

プレスマン:
そうですね、普通の人は少しだけ取り入れるというのが非常によい使い方だと思います。強い色はバッグやアクセサリーなどにでてくるのではないでしょうか。

大澤:先進国のトレンドは共通していて、政治や経済の行く先がわからないのは日本も同じです。そういう時は何かを破壊していく色、強い色というのがでてくると思うんですね。過去でもそうだったと思います。そうしてまた次のスパイラルに入っていくんだと思います。

プレスマン:おっしゃるように世界中が今つながっており、そして世界中が仕切り直しの時に入っていると感じます。20年周期くらいで戻る様な動きをするという人もいます。それが今後どのような動きになるのかというと、これですとはっきりいうことはできませんが、アメリカでは今年、大統領が誰になるのかということで、カラー動向に関しても大きく違ってくると思います。大統領選のある年は国全体として落ち着きませんし、差別的な発言があったりもして、怖いという気持ちになったりします。

大澤:先日見たアメリカの映画で、余命幾ばくもない大金持ちが自分の記憶をロボットに移植しようとするものがあったのですが、とてもアメリカらしいと思いました。そういった技術革新などが色や素材に影響していくことがあるのではと思うのですが、いかがですか。

プレスマン:
テクノロジーが進んで行くことに関して、恐れを感じるところがあります。アメリカでは製造業はすでに海外にでてしまっているのですが、今後はサービスの仕事がロボットにどんどんとられていくのではないかといった不安感があります。
ロボットやAIといったものの色に対する影響はあると思います。非常にオプティカルなホワイト、グレー、シルバーメタリック、いわゆるフューチャリスティックな色。あとは、アニメの色の影響もあると思います。ビビッドで未来テイストを表す色。ただこの辺は、日本の方が進んでいると思いますが。 

*以下は、季刊「流行色」2016年冬号に収録されています。


Copyright (C) JAFCA - Japan Fashion Color Association